多くの研究者に大きな衝撃を与え、いろいろな研究室で実験が行われた結果、肺ガンや大腸ガンのDNAでも細胞がガン化することが確かめられた。
複数のガン遺伝子があると予測されるようになったのである。
じつのところ、このようなガン発生の原因探究とは別に、ガンウイルスの研究も進んでいた。
ニワトリやマウスなどでは、ウイルスによってガンが起こることが早くから知られていて、1911年にはニワトリに肉腫を起こす「ラウス肉腫ウイルス」が発見されている。
そして76年になって、このラウス肉腫ウイルスからガンを発生させる遺伝子として、初めて「サーク遺伝子」が発見され、取り出された(クローニングされた)。
以来、ニワトリやネズミ(ラット)のガンウイルスから、いくつものガン遺伝子が発見されている。
このようなことから、ヒトのガンに関する次の課題は、ガン細胞からガン遺伝子を取り出して、その構造をガンウイルスから得たガン遺伝子と比較することであった。
ヒトの場合は、ガンウイルスの感染によってガンが発生するケースは、成人T細胞白血病などを除いて、ほとんどない。
なぜ実験動物に見られるような、ウイルスが原因となるガンがないのか。
では、ヒトのガン遺伝子はどこからやってくるのか。
このような疑問を解くためにも、ヒトのガン遺伝子の構造(塩基配列)を早急に知る必要があったのである。
ガンウイルスの遺伝子を使って、似た構造を″釣り上げる″ハイブリダイゼーションと呼ばれる分析方法を用いると、ラットのガンウイルスからクロニングされたラス(ras)遺伝子と呼ばれるガン遺伝子が、ヒトの勝耽ガンを起こす遺伝子としてもあることがわかった。
続く探査の結果、ガンウイルスの遺伝子と同じ構造をもつヒトのガン遺伝子が、いくつも発見されることになる。
ヒトのガンはウイルスが原因ではないであろうという発想からスタートした研究で、ウイルスのガン遺伝子とヒトのガン遺伝子はほとんど同じであるという結果が出たのである。
では、これらのガン遺伝子は、どこからやってきたものなのか。
ウイルスに特有のものではないとすれば、もともと細胞にあった遺伝子であると考えるのが自然だ。
原形となる遺伝子が細胞にあって、あるときガンを起こす働きを示すように変化するとともに、細胞に寄生する性質のあるウイルスのなかにも取り込まれた、というわけである。
実際にラス遺伝子を例にとると、すべての細胞のなかには原形となる正常なラス遺伝子があって、そのDNA配列のなかのたった1つの塩基が入れ換わっただけで、ガンを起こす原因となる遺伝子に変身する。
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